様々な表現技法
Cloisonnes
七宝焼の魅力の一つに多岐に渡る表現技法があります。油絵の作品が技法によって幅広い表現が可能なのと同じように、工芸品でありながらも七宝焼は技法によって作品の表情をガラリと変えることができます。
銀線を用いて主線をハッキリとさせた表現から、色の混ざり合いやグラデーション、何度も色を塗り重ねることで奥行きを出したりと、作り出したい作品に合わせた表現が可能です。
釉薬を幾重にも重ねて描く七宝焼だからこそ作り出せる美しさがあります。
七宝焼の技法
七宝焼と一言で言ってもいくつもの技法があり、
技法を使い分けることで理想とするデザインを表現することができます。
有線七宝
ガラスの色彩と
銀線の縁取りが美しい表現
尾張七宝の基本となる技法で、ガラスの色彩を縁取るように浮かぶ金属線が美しい表現方法です。銅や銀などの素地に描いた下絵にしたがって細いテープ状の金属線を立てて輪郭を作り、その間に釉薬を差して焼成して出来上がります。明治時代以降、多くの職人が切磋琢磨して、いろいろな表現法をあみだしました。
有線七宝の表現 其の一Part1
金属線で、
緻密な線を表現
有線七宝は線に見える部分全てに金属線が立てられており、その断面が線として表面に現れています。つまり、線を表したい部分全てに金属線を一本ずつ立てているのです。七宝焼の作品は平面だけでなく、花瓶などの曲面も多くあります。その曲面に垂直に金属線を立てる技術はまさしく職人技です。
有線七宝の表現 其の二Part2
釉薬を盛上げ、
立体感を表現
有線七宝の工程の後に、図柄のうち特に盛り上げようとする部分にさらに釉薬を施釉し焼成する技法を盛上七宝といいます。通常、模様に併せ、数度にわたり七宝釉薬を焼き付け、さらに焼き付けたこの技法は、ガラスの表面を磨き上げることにこだわる七宝焼の中では特異な技法ですが、他には見られない表面の立体感が魅力的な技法です。
有線七宝の表現 其の三Part3
色の重なりで、
奥行きを表現
七宝焼は釉薬を何度も重ねて焼き付けることで色を表現していきます。鯉が水面から顔を覗かせている様を描いたこの作品は、鯉が平面的になってしまわないような工夫がされています。鯉の後半身の色を少し変化させ、前半身の部分の銀線のうろこや輪郭を途中から低くして釉薬に沈めることによって、水中から鯉が頭を出しているように見せる奥行きを表現しています。ガラス質の半透明な釉薬を重ねることでできる表現でもあります。
有線七宝の表現 其の四Part4
金属線を叩き、
力強さを表現
七宝焼の図柄は繊細な銀線を使用した有線七宝で細やかに描かれますが、併せて描かれるモチーフによっては線の強弱で力強さを表現したい場合があります。そこで使用される技法が打ち針です。線になる銀線を金槌などで打つことで厚さに変化を持たせます。通常、銀線で作られた線は均一の細さですが、打ち針をすることで筆で描いたときのような強弱のある表現が可能になり、他のモチーフとの印象の違いを出しています。さらに強調したい場合は銀線の間に銀泥を詰めたり銀の塊をのせたりします。
有線七宝の表現 其の五Part5
金属線を取り除き、
やわらかさを表現
無線七宝は、表面に銀線を残さない技法です。有線七宝と同じく植線により模様を描き釉薬を差しますが、焼成する前に金属線を取り除きます。最初から金属線を使用しない方法もあります。山の稜線など輪郭をぼかしてはっきりさたくない場合に使用します。
省胎七宝
素地を取り除き、
ガラスのように見える表現
透明釉の有線七宝を作成後、銅素地を薬品で腐食させて除去し、銀線と釉薬部分のみ残したものです。銀線と釉薬を透かしてみる効果をねらったもので、ステンドグラスのような独特の美しさが表現できる技法です。
透胎七宝
素地の一部を切り取り、
透かしを表現
一名、「切透かし七宝」とも呼ばれ、素地の一部を模様に応じ切透かし、切透かした部分の輪郭に沿って幅広の銀線を植線し銅素地に焼き付け、中空の部分に透明釉を焼成、銅素地の残存部分には通常の有線七宝を施す変化に富んだ効果のある技法です。
銀彩七宝
銀の光沢を
活かした表現
銅の素地の表面に銀箔を張り、その上に透明や半透明の釉薬を盛りつけて焼成する技法の銀張七宝。電気鋳造で模様をつけた銅素地の上に銀鍍金を施し、その上に施釉する技法の電鋳七宝。これらはともに銀彩七宝と呼ばれています。透明な釉薬は素地の色味が透けて見えるため、銀特有の煌めきと釉薬の色味を合わせることで独特の美しさを表現することができます。
彩釉七宝
金属に打ち出した模様を
釉薬で彩る
素地となる金属の表面部分を模様の形になるように槌などで立体的に打ち出し、輪郭を彫って釉薬止めとし、模様の部分のみ七宝を施したものが彩釉七宝です。この技法は、表面処理をした金属部分と施釉部分との対比で、独特の質感を醸し出します。
エマイユ七宝
絵画のように
釉薬を筆で彩色する
ヨーロッパのエマーユ技法をヒントに、銅素地に白や透明の釉薬をかけ、輪郭線をとるか、そのまま状態で、絵画を描くようにガラスの釉薬に水を含ませ筆で彩色する技法です。
メタル七宝
バッジやアクセサリーなど
用途が多様な七宝表現
比較的低い温度で溶融するメタル釉薬を使った七宝です。型でプレスした素地や彫金を施した銀素地に釉薬をのせて焼成をするため、比較的扱いやすく、七宝教室などにも用いられます。